背筋を伸ばすことは「インディアンの教え」と同時に「剣豪宮本武蔵の教え」。

不思議に日本の知識人は姿勢とか呼吸とかいう肉体的なことを馬鹿にする。私はあるところで苛めをなくす方法の一つとして小学生、中学生の姿勢を正すということを提案したら、初めは皆から失笑を買った。
 
姿勢が健康に大切であるばかりではなく、姿勢は心の在り方にも影響する。体と心を別のものとして考える時代はもう終わっているのである。
 
姿勢の悪さと病気とがいかに深くかかわっているかということは証明する必要もないほどの自明のことであると言う人もいる。私もそう思う。そしてこのように姿勢の悪い子供が心理的に苛立っていたり、神経質になるのは驚くに当たらない(注、Frank Howard Richardson, Winifred Johnson Hearn, The Pre-School Child and His Posture, G.P. PUTNAM'S SONS, 1930, p140。)。
 
悩んで相談にくる人に「君の姿勢は悪い」というと怒る。馬鹿にされたと錯覚するのである。悩んでいる人は「姿勢なんて下らない」とたいてい考えている。どうも日本人は心のほうが肉体よりも何か高級であるかのごとく錯覚している。ことに悩んでいる人達はそうである。日本の知識人の最大の欠陥は肉体的なことと日常生活の些事の重要性を認識していないことである。
 
ところで子供の苛めのないアメリカ・インディアンはとにかく良く歩く。しかし偉大な歩行者と言われるのにはただたくさん歩くということばかりではない。インディアンが偉大な歩行者と言われるのには歩く時の姿勢にもある。インディアンは完全なまでに自然な姿勢で歩くと言う。まえかがみなどでは歩かない。姿勢としては背筋を伸ばし、まっすぐに立った姿勢で歩く。おなかを引っ込めて、胸を張って、顎を下げて、美しい姿勢で歩く。脊柱をまっすぐにした姿勢で歩くことが体重の負担を軽くする。
 
また剣豪宮本武蔵が歩き方について述べている。歩き方は兵法の点からも大切なのである。そしてそれはインディアンの歩き方である。「足のはこびようの事、つまさきを少しうけて、きびすをつよく踏むべし」(注、宮本武蔵、五輪書、渡辺一郎校注、岩波書店、1985、48頁。)。このように踵を強く踏んで歩いて見れば分かるが、姿勢としては背筋を伸ばし、まっすぐに立った姿勢で歩くことになる。
 
「インディアンの教え」の著者は背筋をまっすぐに伸ばして歩くことは神の意志であると書いている。剣豪宮本武蔵も先に書いたように「背すじをろくに」と述べている。背筋を伸ばすことは「インディアンの教え」と同時に「剣豪宮本武蔵の教え」でもある。猫背でもいけないが、逆に胸を突き出して歩くようなことも良くない。インディアンにはおなかが出ているような人はいない。剣豪宮本武蔵は「腰のかがまざるように腹をはり、」と述べている。
 
学校で校則をうるさく言うのをやめて、姿勢について厳しく指導したら少しは苛め対策として効果があるかもしれない。正しい姿勢で苛めたり、苛められたりということは想像しにくい。教科としては保健体育の重視である。