ライオンとイルカ

ライオンはある海岸をぶらついているときに、イルカが首をだしているのを見て、なかまにならないかとすすめ、自分たちは親友になって、たすけあえば、うまくいくと言いました。
 
「あなたは海の動物の王だし、私は陸の王だ。」
 
イルカはよろこんで承知しましたが、まもなくライオンは野ウシと戦争をはじめましたので、イルカをたすけによびました。しかしイルカは、海から出てこようと思ってもそうするわけにはいきませんので、ライオンはイルカを裏切者だと言いました。するとイルカは言いました。
 
「私をせめてもだめです。私は生まれつき海の動物で、陸の上が歩けないのです。」

このライオンと同じですぐに友達になったと錯覚する人が居る。「私達友達」と言っている。たいてい自分を知らないし、相手を見ていない。「あなたは海の動物の王だし、私は陸の王だ」と同じで自惚れている。愛を知らない人達といってもいい。

こうなったのはライオンの自惚れの結果である。イルカとコミュニケーションが出来ていない。イルカと心がふれあっていないことにライオンは気がついていない。
 
イルカは「私をせめてもだめです。私は生まれつき海の動物で、陸の上が歩けないのです」と言って助けを最もらしく断わっている。しかしイルカは水のなかに居る亀に頼んでライオンを助けに行ってもらうことも出来た。イルカはそこまでしない。つまり二人の関係はそれだけの関係なのである。
 
自分の出来ることをする。それが親友である。三等兵は三等兵として大将を助けることが出来る。三等兵と大将との心がふれあっていれば、三等兵は三等兵として大将を助ける。
 
しかし心がふれあっていなければ「私は三等兵ですから大将を助けることは出来ません」というだろう。表面上誰を知っているかが大切なのではない。誰と心がふれあっているかが生きて行く上で力になる。
 
このライオンはわざわざ「海の動物の王」と友達になることはない。自然と心のふれあった動物と友達になればいい。名声を求める人はこのライオンと同じ間違いを犯す。