58. 健康な人は対象喪失しても、すぐ次の目標に向かう(『愛されなかった時どう生きるか』)

『愛されなかった時どう生きるか』より

一般に健康な人間は対象喪失にどのような反応をするのだろうか。
 
事業に失敗するとか、失恋するとかという喪失がおきた時、きっとあきらめて次の瞬間には別の目標にむかっている、などという人はいない。
 
たいていの人はすぐには素直に受け入れられない。夢ではないかと思ったり、何かの間違いではないかと思ったりしよう。
 
失恋の場合であれば、「あの人は私の愛をためしているのではないか」と思ったり、「いつかきっと帰ってくる」と思ったりする。そのように対象喪失を否認する時期というのがあろう。
 
或いは自分を捨てていった恋人を恨んだりする。激しい憎しみにかられ怒り狂う時もあろう。
 
だが、そのような時期を経て、たいていの人は喪失を最終的に受け入れていく。やっぱりだめだったと断念する。
 
やがて、新しい情熱の対象を発見して生きていく。
 
これが心理的に健康な人の対象喪失にともなう悲哀のプロセスであろう。
 
「愛の解消も、生涯、人によく愛され、愛を確信している人間にとっては、それほど脅威とはならないものである」(マズロー、小口忠彦監訳、『人間性の心理学』産業能率大学出版部 185頁)
 
しかし、すべての人がこのようにして喪失から再生への道をうまく歩むわけではない。神経症の人などは、喪失から再生への道をうまく歩めないであろう。
 
世界は自分に奉仕すべきであるという世界観をもっている人は、喪失を最終的に受容することはできないのであろう。「あいつを許せない」という怒りが終わる時がない人もいよう。

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